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男性の育児休業 みんなの実例

初めての男性職員の育児休業を支えた、職場に根づく「お互いさま」

初めての男性職員の育児休業を支えた、職場に根づく「お互いさま」

佐賀県嬉野市にある医療法人陽明会 樋口病院で、2026年3月、男性職員が育児休業を取得しました。

取得したのは、臨床検査技師の三松さん(27歳)。第二子の誕生に合わせ、27.5日間を2回に分けて取得しました。

樋口病院では、初めてとなる男性職員の育児休業。医療現場には専門職が多く、簡単に人の入れ替えがきくわけではありません。それでも、どのようにして初めての育児休業を実現できたのでしょうか。

樋口理事長と三松さんに、お話を伺いました。

【プロフィール】

樋口 正晃 さん

  • 事業所名: 医療法人 陽明会 樋口病院
  • 役職: 理事長

【プロフィール】

三松 新一 さん

  • 役職: 臨床検査技師
  • 家族構成:妻、長女(1歳)、長男(0歳)
  • 取得期間: 27.5日間

1. 一人の申し出が気づかせてくれた、職場に根づく支え合い

樋口病院で働く職員は83名。そのうち男性は20名です。

これまで女性職員の育児休業取得はあったものの、男性職員から「育児休業を取りたい」という申し出があったのは、三松さんが初めてでした。

三松さんから相談を受けたとき、樋口理事長が最初に伝えたのは、「おめでとう」という言葉だったといいます。

樋口理事長

相談を受けたときは、率直にうれしかったですね。人手のことや仕事の段取りを考えるより先に、『おめでとう』という言葉が出ました。
なぜすぐにそう言えたのかなと振り返ると、うちにはもともと“お互いさま”という感覚があったからだと思います。体調を崩したり、家庭の事情があったりして、誰かが急に休まないといけないことってありますよね。そんなときも、『困ったな』で終わるのではなくて、『じゃあ、どうしようか』『みんなでどう支えようか』と考える。そういうことを、これまでも自然にやってきました。

誰かが休めば、周りが支える。困っている人がいれば、自然と手を差し伸べる。

三松さんの申し出をきっかけに、そうした関係がすでに職場のなかにあったことを、樋口理事長は改めて実感したといいます。

樋口理事長

むしろ、そういう職場だったのに、これまで男性職員の育児休業というところには、手を伸ばせていなかったんだなと思いました。
三松くんが声を上げてくれたことで、「ああ、ここにもできることがあったんだ」と気づかせてもらったんです。だから、「おめでとう」という気持ちと同時に、「ありがとう」とも思っています。
昔から職員みんなで大事にしてきたことが、今の働き方にもちゃんとつながっている。そう思えたことは、素直にうれしかったですし、職員と一緒につくってきたこの職場を、少し誇らしく感じました。

2. 「その人にしかできない仕事」を、少しずつ減らしておく

三松さんは臨床検査技師。専門性の高い仕事だからこそ、約1か月職場を離れるとなれば、現場への影響は決して小さくありません。

では、一人が休んでも業務を止めないために、樋口病院ではどのような体制をとっていたのでしょうか。

樋口理事長

日頃から、誰がどんな仕事をしているのかを共有して、できるだけチームのなかで業務を分担するようにしています。また、一人ひとりが複数の検査を扱えるようにすることも進めています。
もちろん専門職なので、すべてを誰でもできるわけではありません。それでも、“この仕事はこの人しかできない”という状態を少しずつ減らしておけば、誰かが休むときにも調整しやすくなります。

今回、三松さんは第二子の出産に合わせて育児休業を取得しました。上の子もまだ手がかかる時期だったことから、出産予定日の2〜3か月前には上司へ相談を始めたといいます。

三松さん

上司は普段から話しやすい方なので、相談はしやすかったですね。検査の仕事は月初が忙しいので、そこに長い休みが重ならないようにして、3月下旬と4月下旬の2回に分けました。
できるだけ周りに負担をかけない形で取りたい、という気持ちがあったので、分けて取得できたのは助かりました。

一人に仕事を集中させず、複数の職員が対応できる業務を増やしておく。そして、取得する本人も早めに相談し、忙しい時期を避けながら取得時期を調整する。

こうした準備が、専門職である三松さんの27.5日間の育児休業を支えました。

樋口理事長

育児休業に限らず、急に病気になって休むこともありますし、研修などで職場を離れることもあります。そういうときにも対応できるようにしておくことは、日頃から大事にしています。

3. 一人を、みんなで支えられる職場へ

三松さんの育児休業は、妻の出産翌日から始まりました。

1〜2時間おきに泣く新生児に、まだ手のかかる上の子。三松さんは当時を「両手に赤ちゃん状態でした」と振り返ります。

三松さん

昼間は自分がミルクをあげて、その間に妻には少しでも休んでもらうようにしていました。夜は母乳があるので妻が担当して、皿洗いや洗濯などは自分がやるようにしていました。
実際に二人でやってみると、育児って本当に大変なんだなと改めて感じましたね。妻からも「一人で対応するより、二人でできたことがすごく助かった」と言ってもらえて、育児休業を取ってよかったなと思いました。

こうして始めた家事の分担は、職場に復帰した今も続いているそうです。

育児休業を経験したことで、職場での見え方にも少し変化があったといいます。

三松さん

職場には、3人、4人とお子さんを育てながら働いている看護師さんもいます。自分は二人でも大変だと感じたので、仕事をしながら子育てもされているのは、本当にすごいなと思うようになりました。
自分も周りに支えてもらったので、誰かが困っているときにはフォローしよう、という気持ちにも、前より気づきやすくなった気がします。

現在の勤務時間は8:30〜17:30まで。残業もほとんどなく、保育園の送迎にも間に合っているそうです。

樋口理事長

子どもが生まれたときや、小さい頃って、本当に今しかない時間ですよね。私は自分の子どもが生まれたときは育児休業を取れなかったので、なおさらそう感じます。だから、家族との大切な時間を安心して過ごせるように、職場で支えられることはすごく大事だと思っています。
育児休業って、一見すると「一人が職場から抜ける」ことに見えるかもしれませんが、私は「一人を、みんなで支えられる」ことだと思っています。一人が大切な時間を過ごせるように、みんなで支える。そして、支えてもらった人が職場に戻ってきたら、今度は誰かが困ったときに手を差し伸べる。そうやって、もらったものを次の人に返していくような“恩送り”が、職場のなかで少しずつ巡っていくといいですね。

4. 「完璧な病院」より、「よくなり続ける病院」へ

今回、初めて男性職員の育児休業が実現した樋口病院。

一方で、樋口理事長は「まだ道の途中です」と話します。

樋口理事長

部署によっては、まだ休みづらさが残っているところもあります。人員に余裕がある部署もあれば、専門職が少なくて調整が難しい部署もあるので、すべて同じようにはいかないんですよね。
だから、まずはトップが「休んでいいんだよ」ということを繰り返し伝えていくことが大事だと思っています。
そして、支え合いを個人の頑張りだけで何とかするのではなくて、病院として支えられる仕組みを少しずつ整えていくこと。電子カルテへの移行など、日々の業務を少しでも進めやすくするためにDXを進めています。今回の県の奨励金も、そうした取り組みに活用させてもらいました。

これからも、一つずつ課題を見つけながら、少しずつ改善していく。

完璧な病院を目指すのではなく、よくなり続ける病院へ。今回の育児休業をひとつのきっかけに、樋口病院の職場づくりは、これからも続いていきます。

育児休業により感じた3つのメリット

  • 職場にすでにあった「支え合う力」に気づけた
  • 「その人にしかできない仕事」を減らす大切さを再確認できた
  • 支えられた経験が、次に誰かを支える気持ちにつながった